インプラント撤去を考えるときに知っておきたいポイント
近年、歯を失った際の有力な治療法として定着したインプラント。しかし、治療後にトラブルが発生し、撤去(除去)を検討せざるを得ない場合もあります。「他院でインプラント治療を断られた」「インプラント周囲炎が心配」「今後の対応が不安」といった悩みをお持ちの方は、まず撤去が必要となる原因や手術の流れ、撤去後の選択肢を正しく知ることが大切です。本記事ではインプラント撤去にまつわる基礎情報から、再手術・代替治療・費用面など、知っておきたいポイントを総合的にご紹介します。治療を検討されるうえでの参考になれば幸いです。
インプラント撤去が必要となる主な原因
インプラントの成功率は高いといわれますが、適切なメンテナンスや治療が行われないと、さまざまなトラブルが発生します。ここでは、撤去に至る主な原因をいくつかご紹介します。
インプラント周囲炎
インプラント周囲の歯ぐきや骨に起こる炎症を「インプラント周囲炎」と呼びます。これは歯周病とよく似た病態ですが、歯ぐきの奥深くで炎症が進むため、症状が出たときには骨がかなり吸収されている可能性があります。具体的には、
- 清掃不良やメンテナンス不足による感染
- 噛み合わせの負担過多によるオーバーロード
- 喫煙や全身疾患(糖尿病など)の影響
などが原因としてあげられます。初期に適切な治療が行われればインプラントを残せる場合もありますが、骨吸収が進み固定力が低下すると、撤去が必要になることもあります。
インプラント自体の構造的トラブル
インプラントは「インプラント体(人工歯根)」「アバットメント(連結部分)」「上部構造(被せ物)」の3つのパーツから構成されています。長期間使用するうちに何らかの不具合が生じると、治療をやり直すためにインプラントの撤去が検討されます。たとえば以下のようなケースです。
- インプラント体にヒビや破損がある
- 上顎洞内への迷入などインプラントの位置に問題がある
- インプラント部品同士の連結不良や欠損
破損が軽微な場合はパーツの交換で済むこともありますが、場合によってはインプラント体の除去が必要になることもあります。
神経・血管への影響
下顎には下歯槽神経、上顎には上顎洞などの重要組織があります。これらにインプラントが干渉すると、痛みやしびれ、炎症などの症状を引き起こすリスクが高まります。
- 術後に持続的な痛みや知覚異常が続く
- 上顎洞を傷つけて慢性的な炎症が生じる
- 神経への圧迫による麻痺症状
こうした深刻な症状が確認された場合、原因を取り除くためにインプラントを撤去しなければならないこともあります。
インプラント撤去手術の流れ
インプラント撤去は、埋入手術より難易度が高いことが多いです。ここでは、撤去手術の一般的な手順を紹介します。
手術前の検査と治療計画
まず歯科医師が口腔内の検査とレントゲンやCT撮影を行い、撤去の必要性を判断します。
- インプラント周囲炎の進行度合い
- 骨吸収の状態や残存骨量
- 神経や上顎洞の位置関係
状況に応じて、炎症を抑えるための先行治療(歯周治療、抗生物質の投与など)が行われる場合があります。
撤去手術のステップ
インプラント撤去は、一般的に局所麻酔で行われます。抜歯のように短時間で終わるケースもあれば、時間を要する場合もあります。
- 局所麻酔:痛みを軽減するための麻酔を施します。
- 専用器具による除去:フィクスチャーリムーバーなどを使用し、インプラント体を逆回転させながら骨から取り外します。
- 必要に応じた骨削除:インプラントが骨と強固に結合している場合、骨を削って除去を行うことがあります。
- 創部の縫合・消毒:除去後は傷口を縫合して清潔に保ちます。
術後のケアと注意点
撤去手術の後は、患部に痛みや腫れが生じることがあります。通常、鎮痛薬や抗生物質が処方され、感染予防と痛みの管理が行われます。術後に気をつけるポイントは以下の通りです
- 強い運動や飲酒、喫煙を控える
- 傷口付近を刺激しすぎないように優しくブラッシング
- 定期的に歯科医院で経過観察を受ける
術後のケアを怠ると再感染し、治療期間が長引くリスクがあります。しっかり医師の指示に従いましょう。
再手術の可能性と注意点
「インプラント撤去後、条件が整えば再埋入が可能です。しかし、以下のような場合には注意が必要です。
再埋入が可能となるケース
撤去原因となった炎症や感染が治り、残存骨量が十分な場合、再手術を視野に入れます。
- インプラント周囲炎が完全に治癒している
- 骨造成などを行い骨の厚みや高さを改善できる
- 噛み合わせやブラッシング習慣など、再発のリスク要因が解消されている
再手術では、初回の治療よりも骨造成(GBR法など)が必要になる場合が多く、治療期間や費用が増大する可能性があります。
再埋入が難しいケース
一方、以下の状況では再手術が困難または見送られることがあります。
- 骨量の著しい不足:高度な骨吸収や全身疾患により十分な骨再生が見込めない
- 喫煙習慣や歯ぎしりなど、歯周組織に悪影響を与えるリスクが継続している
- 炎症や細菌感染が活動期であり、再度トラブルを引き起こす可能性が高い
再手術の可否は、術前検査や患者の健康状態、日常習慣などから判断されます。
インプラント撤去後の代替治療
インプラント撤去後、必ずしも再度インプラントを入れる必要はありません。以下のように、他の選択肢を検討するケースもあります。
- 入れ歯:部分入れ歯や総入れ歯による補綴。骨量や歯ぐきの状態に左右されにくいため、多くの方が適用可能。
- ブリッジ:両隣の歯を削り、連結した被せ物で欠損部を補う方法。支台となる歯の健康状態がポイント。
- 他素材のインプラント:チタンアレルギーの場合、ジルコニアインプラントなど金属以外の選択肢もある。
最適な補綴方法は口腔内の状況や患者さんの希望によって異なります。歯科医師としっかり相談し、長期的なメリット・デメリットを考慮して治療方針を決定することが重要です。
経済的な視点と保険診療の適用
インプラント撤去や再手術は、大きな費用がかかる場合があります。ここでは、保険診療と自由診療の違いについて説明します。
保険が適用されるケース
他院で入れたインプラントの不具合など、一定の条件を満たせば保険診療で撤去が可能です。ただし、レントゲンやCTなどの撮影が必須となり、すべての工程が保険適用となるわけではありません。費用は3割負担の場合、1,000円台~2,000円台程度と比較的安価です。
ただし、再埋入(インプラントの再手術)は基本的に自由診療となります。保険診療が適用されるかどうかは、歯科医院や自治体ごとに規定が異なるため、受診時にしっかり確認しましょう。
自由診療の場合
自由診療では、歯科医院の料金設定や使用素材、保証制度などにより費用が大きく変動します。インプラント撤去後の骨造成や代替治療を考慮すると、総費用が高額になることがあります。
治療内容 | 保険診療 | 自由診療 |
---|---|---|
インプラント撤去 | 条件を満たせば適用 | 医院により価格設定が異なる |
再埋入 | 通常は適用外 | 素材・術式により大きく変動 |
保証制度 | 公的制度のみ | 医院独自の保証あり |
長期的な費用について、納得できるまで治療計画を歯科医院と相談することが不可欠です。費用だけにとらわれず、今後の口腔内環境やメンテナンス性も考慮して判断しましょう。
インプラントを長持ちさせるための予防と管理
インプラントを長持ちさせるためには、日常のケアと定期的な専門的メンテナンスが欠かせません。撤去後に再度インプラントを選択する場合でも、再発を防ぐために以下のポイントを押さえておきましょう。
日常的なケア
インプラント周囲炎の予防には、毎日の歯磨きと補助清掃(歯間ブラシやデンタルフロス)が重要です。インプラント周囲は天然歯と形状が異なるため、ケアが行き届きにくい部分が多く、意識した清掃が必要です。
専門家による定期検診とメンテナンス
定期検診では、インプラント周りの検査やレントゲン撮影、専門的なクリーニングが行われます。問題が早期に発見されれば、簡易な治療やブラッシング指導だけで対処できる場合も多いです。噛み合わせの調整も大切で、過剰な負担を避けることが長期間の安定に繋がります。
まとめ
インプラント治療は非常に優れた歯科治療ですが、トラブルが発生して撤去が必要になることもあります。撤去に至るまでにはインプラント周囲炎や構造的トラブル、神経への影響などが考えられます。
また、撤去後に再手術でインプラントを埋入できるかどうかは、骨量の状態や炎症の有無、生活習慣などを総合的に検討する必要があります。代替治療として入れ歯やブリッジを選ぶ場合もあれば、再度インプラントを検討する場合もあります。費用面では保険が適用されるケースもある一方、自由診療になると高額になりがちです。
治療方針で迷われている方や、他院でインプラント治療を断られた方は、専門的な相談を受けることをおすすめします。信頼できる歯科医師とともに、長期的なメリットとリスクを把握し、最適な治療計画を立てましょう。皆さまの口腔内の健康維持とQOL向上に、少しでもお役立ていただければ幸いです。
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