結論:インプラントのISQ(Implant Stability Quotient:インプラント安定指数)は、インプラントがあごの骨にどれだけしっかり固定されているかを1〜100の数値で示す指標です[1][2]。一般に70以上は高い安定性、60〜69は中程度、60未満は低い安定性の目安とされます[1]。ただし、誰にでも当てはまる一律の基準ではなく、歯科医師が他の検査と合わせて判断するための材料の一つです。
この記事では、ISQの測り方、数値の目安、治療中の変化、数値に影響する要因、そして患者さんにできることを解説します。
インプラントのISQとは:骨への固定の強さを数値にしたもの
ISQは、インプラントの「安定性」を客観的に表すための数値で、値が高いほど安定していることを示します[1][2]。
インプラントの安定性には、2つの段階があります[2]。
- 初期固定(一次安定性):埋入した直後に、インプラントが骨に機械的にはまり込んでいる強さ
- 二次安定性:骨が治っていく過程で、インプラントと骨が結合(オッセオインテグレーション)して得られる安定
ISQは、この2つの段階をまたいで同じ方法で測れるため、治療の経過を数値で追える点が特徴です。
ISQの測り方:共振周波数分析
ISQは「共振周波数分析(RFA)」という方法で測定します[1][2]。
インプラントに小さな測定用の部品を取り付け、ごく小さな振動を与えて、その振動の周波数を専用の装置で読み取ります。読み取った値を0〜100の数値に換算したものがISQです[2]。歯ぐきや骨を切ったりする必要はなく、測定は短時間で終わります。
ただし、測定値は測り方の条件にも左右されます。日本口腔インプラント学会誌に掲載された模型を使った研究では、測定に使う部品の長さや当てる角度によってISQが変わることが報告されています[3]。そのため、同じ条件で繰り返し測り、経過を比べることが大切です。
ISQ値の目安:70以上・60〜69・60未満
測定装置のメーカーが示すガイドラインでは、ISQ値はおおむね次のように分けられています[1]。
| ISQ値 | 安定性の目安 |
|---|---|
| 70以上 | 高い安定性 |
| 60〜69 | 中程度の安定性 |
| 60未満 | 低い安定性 |
臨床で測られる値の多くは55〜80の範囲に入り、下あごは上あごより高めに出る傾向があるとされています[1]。
大切なのは、これらの数値が「この値なら大丈夫」という一律の合格ラインではないことです。同じガイドラインでも、適切な値はインプラントの種類や臨床の状況によって異なり、ISQは歯科医師の判断を補う一つの指標と位置づけられています[1]。人工歯を装着する時期なども、ISQだけでなく、レントゲン写真や歯ぐきの状態などを合わせて決めます。
治療中のISQの変化:一時的に下がることもあります
ISQは埋入後ずっと上がり続けるわけではなく、治癒の途中で一時的に下がり、その後上がっていくのが一般的な経過です[2]。
文献レビューによると、安定性は次のように移り変わるとされています[2]。
- 埋入直後〜1週目:機械的な初期固定が中心
- 2週目前後:初期固定が弱まり、安定性が最も低くなりやすい時期
- その後:骨との結合が進み、5〜6週ほどで安定性が横ばいに近づく
この移り変わりにかかる期間は、おおよそ5〜8週とされています[2]。期間は骨の状態や部位によって変わるため、一人ひとりの経過を見て判断します。
メーカーのガイドラインでは、治癒期間の後にISQが上がるのが一般的で、治癒後も低いままの場合や下がり続ける場合は注意すべきサインとされています[1]。一度の測定値だけで良し悪しを決めず、推移を見ることが大切です。
ISQに影響する主な要因
ISQは骨の質や部位など複数の要因に影響され、なかでも骨の質が最も重要な要因の一つとされています[2]。
| 要因 | ISQとの関係 |
|---|---|
| 骨の質 | 最も重要な要因の一つ。ただし骨の分類は主観的で、研究結果は一致していない[2] |
| 部位(上あご・下あご) | 下あごの方が高い傾向があるが、すべての研究で同じではない[2] |
| インプラントの太さ・長さ | 太さは関係するという報告が多いが一致せず、長さは臨床では明らかな影響がないとする報告が多い[2] |
| その他 | 埋入時の締め付けの強さ、形状や表面、手術方法、治癒期間など[2] |
このレビューでは、研究どうしの結果が食い違うことも多く、より質の高い研究が必要とまとめられています[2]。ISQは役立つ指標ですが、万能ではないと理解しておきましょう。
ISQが低めだった場合に検討されること
ISQが低めの場合は、骨との結合が進むのを待つために、人工歯を付ける時期を遅らせるなど治療計画を調整するのが一般的です。
- 治癒を待つ期間を長めにとる
- 期間をあけて再測定する(メーカーのガイドラインでは、65未満の場合に3週間後の再測定を行う方法が紹介されています[1])
- 噛む力をかける計画を見直す
どのように対応するかは、ISQの値だけでなく、レントゲン写真や歯ぐきの状態、全身の状態をふまえて歯科医師が判断します。気になる場合は、数値の意味と今後の予定を遠慮なく質問してください。
インプラントを長く安定させるために患者さんができること
インプラントを長く使うには、治療後のセルフケアと定期的なメインテナンスが欠かせません[4][5]。
日本口腔インプラント学会は、インプラントは骨とはしっかり結合する一方、歯ぐきとの結合は弱く、天然の歯より感染に弱いと説明しています[4]。インプラント周囲の歯ぐきに炎症が起きた状態を「インプラント周囲粘膜炎」、骨まで失われていく状態を「インプラント周囲炎」といいます[5]。
- 毎日の清掃:歯ブラシ、フロス、歯間ブラシなどでインプラント周囲を清潔に保ちます[5]。
- 定期的なメインテナンス:日本口腔インプラント学会と日本歯周病学会の見解では、状態が良好な場合は一般に4〜6か月間隔、状態に応じて1〜3か月間隔が望ましいとされています[5]。
- 禁煙:喫煙は歯ぐきの血流を悪くし、歯周病の悪化や治療後の治りの遅れにつながります[6]。
インプラント治療を検討している方へ
インプラントは自由診療で、手術を伴う治療です。検討するときは、次の点を一般的な知識として押さえておきましょう。
- 標準的な治療内容・期間:検査・診断、インプラントを埋める手術、骨と結合するまでの治癒期間、人工歯の装着、その後のメインテナンスという流れで進みます。治療期間は比較的長めです[4]。
- 主なリスク:手術に伴う痛み・腫れ・出血・合併症、インプラント周囲の感染、人工歯の破損などがあります。骨の量が足りない場合や全身の状態によっては、治療が難しいこともあります[4]。
- 費用:自由診療のため全額自己負担で、比較的高額です[4]。日本歯科グループの公式サイトでは、インプラント1本あたりの費用を、インプラントの種類(バイオテム・ネオデント・ストローマン)と上部構造の材質に応じて15万〜45万円(税込・公式サイト記載の料金、症例により別途費用あり)と案内しています。この料金にはレントゲン・CTスキャン・手術代が含まれ、骨造成などが必要な場合は別途費用がかかります。保証期間はインプラントの種類により1年・5年・10年です。初回相談は0円です。詳しくは日本歯科グループのインプラント治療のページをご覧ください。
静岡歯科(静岡市葵区追手町2-15 MRKビル3階、JR東海道線「静岡駅」より徒歩5分)では、インプラント治療についてのご相談を受け付けています。日本歯科グループでは主にストローマン社製のインプラントを使用しており、相談時にはレントゲン・CTによる検査を行います。ISQ測定の実施の有無など、検査の詳細は各院にお問い合わせください。検査結果をもとに、治療の流れやリスク、ほかの治療法との違いを説明しますので、疑問や不安があればお気軽にご相談ください。医院の詳細は静岡歯科のページをご覧ください。
よくある質問
ISQ値はいくつあれば安心ですか?
一般には70以上が高い安定性の目安とされますが、一律の合格ラインではありません。インプラントの種類や部位によって適切な値は異なります。歯科医師がレントゲン写真などと合わせて判断します。
ISQの測定は痛いですか?
インプラントに小さな部品を取り付けて振動を読み取る方法で、歯ぐきや骨を切る必要はありません。測定は短時間で終わります。不安な点があれば、測定前に歯科医師に確認してください。
埋入後にISQが下がったのですが、失敗ですか?
埋入後2週目前後は、初期固定が弱まって安定性が一時的に下がりやすい時期とされています。その後、骨との結合が進むと上がっていくのが一般的な経過です。一度の値ではなく推移を見て、歯科医師が判断します。
ISQが高ければ、メインテナンスは不要ですか?
不要ではありません。ISQは骨との固定の強さを示す指標で、将来の歯ぐきの炎症を防ぐものではありません。インプラントを長く使うには、毎日の清掃と定期的なメインテナンスが必要です。
ISQの値は自分で教えてもらえますか?
測定を行っている場合は、数値の意味や治療計画への影響を質問してみましょう。数値だけで一喜一憂せず、今後の予定とあわせて説明を受けることが大切です。
参考情報
- Osstell(測定装置メーカー)「The Osstell ISQ Scale(ISQスケール)」
- Huang H, Wu G, Hunziker E「The clinical significance of implant stability quotient (ISQ) measurements: A literature review」Journal of Oral Biology and Craniofacial Research, 2020
- 日本口腔インプラント学会誌「樹脂モデルにおける動揺度計測装置と共振周波数分析装置の検討:計測条件が計測値に与える影響」2007年
- 日本口腔インプラント学会「インプラントのメリット・デメリット」
- 日本口腔インプラント学会・日本歯周病学会「インプラントのメインテナンスに関する学会見解」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「喫煙と歯周病の関係」