老後の生活の質を左右する大切な要素の一つが「歯の健康」です。実は、高齢になって残っている歯の本数は、単に食事を楽しめるかどうかだけでなく、全身の健康や寿命にも深く関わっていることが分かってきました。80歳で20本以上の歯を保つことができれば、食事の満足度が高く、栄養状態も良好に保たれる傾向があります。
この記事では、年齢別の平均残存歯数や、歯と健康寿命の関係性、さらには今からでも実践できる歯を長持ちさせるための方法について詳しく解説します。
老後の平均的な歯の本数は何本?年齢別データから解説
加齢とともに歯の本数が減少していくことは多くの方が実感していることでしょう。まずは、具体的なデータをもとに、日本人の年齢別の平均残存歯数を見ていきましょう。
厚生労働省が実施した令和4年度歯科疾患実態調査によると、年齢別の平均残存歯数は以下のようになっています。
年齢区分 | 平均残存歯数 | 20本以上の歯を持つ人の割合 |
---|---|---|
65〜69歳 | 23.8本 | 約80% |
70〜74歳 | 21.0本 | 約70% |
75〜79歳 | 18.1本 | 約55% |
80〜84歳 | 15.6本 | 約40% |
85歳以上 | 14.0〜14.5本 | 約30% |
このデータから明らかなように、65歳を過ぎると年齢とともに歯の本数は減少していき、80歳を超えると平均で半数以上の歯が失われていることがわかります。しかし、近年の口腔衛生意識の向上や歯科医療の進歩により、過去と比較すると高齢者の残存歯数は増加傾向にあります。
成人の歯の本数と減少傾向
健康な成人の口腔内には、親知らずを含めると最大32本、親知らずを除くと28本の歯があります。しかし年齢を重ねるにつれて、虫歯や歯周病、外傷などさまざまな原因で歯を失っていきます。
特に日本人の場合、50代から歯の喪失が加速し始め、70代になると平均で10本以上の歯を失っている状況です。また、歯の喪失パターンには一定の傾向があり、奥歯(大臼歯)から失われていくケースが多いことも特徴的です。
男女差や地域差はあるのか
残存歯数には男女差も見られます。一般的に女性の方が男性よりも早期に歯を失う傾向にあります。これには女性ホルモンの変化や、特に閉経後の骨密度低下が歯周病のリスクを高めるという要因が関係していると考えられています。
また、地域差も少なからず存在します。都市部と比較して、歯科医院へのアクセスが限られる地方では、高齢者の残存歯数が少ない傾向が見られます。さらに、社会経済的要因も影響しており、経済的余裕や教育レベルが高い層ほど、残存歯数が多い傾向にあることが調査で明らかになっています。
8020運動の達成率と現状
「8020運動」とは、80歳になっても20本以上の自分の歯を保とうという厚生労働省と日本歯科医師会が1989年から推進している取り組みです。食事をおいしく食べるためには、最低でも20本程度の歯が必要とされているためです。
この運動が始まった当初は、80歳で20本以上の歯を持つ人の割合はわずか7%程度でしたが、最新の調査では約40%まで上昇しています。この数字は過去30年で約6倍に増加しており、歯科保健の啓発活動や予防歯科の普及が着実に成果を上げていることを示しています。しかし、まだ60%の方は目標を達成できていない状況であり、さらなる改善の余地があります。
残っている歯の本数と寿命・健康の関係性
歯の本数は単に咀嚼機能に関わるだけでなく、全身の健康状態や寿命とも密接に関連していることが様々な研究で明らかになっています。ここでは、歯と健康の関係性について詳しく見ていきましょう。
歯の本数と健康寿命の相関関係
複数の疫学研究により、歯の残存数と健康寿命には強い相関関係があることが示されています。健康寿命とは、介護を必要とせず自立した生活を送ることができる期間のことです。
80歳で20本以上の歯を保持している人は、そうでない人と比較して平均で4.4年も健康寿命が長いというデータがあります。また、自分の歯が多く残っている高齢者ほど、要介護状態になる確率が低く、認知機能の低下も緩やかであることが報告されています。
この相関関係の背景には、十分な咀嚼機能を維持することで栄養バランスの良い食事が摂れることや、口腔内の細菌バランスが全身の健康に好影響を与えることなどが考えられています。
老後の咀嚼機能と栄養摂取の関係
老後、歯の本数が減少すると、咀嚼機能が低下し、選ぶ食品が限られるようになります。特に、硬い食品や繊維質の多い野菜、肉類などが避けられるようになり、柔らかくて炭水化物が多い食品に偏りがちです。
このような食事の偏りは、たんぱく質やビタミン、ミネラルなどの摂取不足につながり、筋力低下や骨密度の低下、免疫機能の低下など、様々な健康問題を引き起こす可能性があります。
研究によれば、20本以上の歯を持つ高齢者は、10本未満の歯しか持たない高齢者と比較して、たんぱく質やカルシウム、食物繊維などの摂取量が25〜30%も多いことが明らかになっています。これらの栄養素は健康維持に不可欠であり、その摂取量の差が健康状態の差につながっていると考えられます。
口腔内細菌と全身疾患の関連
歯の喪失は主に歯周病が原因となっていることが多く、歯周病菌やその炎症性物質が血流に乗って全身に広がることで、様々な疾患リスクを高めることが知られています。
特に、歯周病と糖尿病、心疾患、脳血管疾患、誤嚥性肺炎などとの関連性は多くの研究で指摘されています。また、歯周病に罹患している人は、健康な人と比較して心筋梗塞のリスクが約2倍、脳梗塞のリスクが約3倍高まるというデータもあります。これは歯周病菌が血管内膜に炎症を引き起こし、動脈硬化を促進するためと考えられています。
高齢者の主な死因の一つである誤嚥性肺炎についても、口腔内の細菌数が多いほどリスクが高まることが知られています。歯の本数が多く、適切な口腔ケアが行われている場合、口腔内細菌数は少なく保たれ、結果として肺炎リスクの低減につながります。
QOL(生活の質)への影響
歯の本数はQOL(生活の質)にも大きな影響を与えます。歯が少なくなることで、食事の満足度が低下するだけでなく、会話や笑顔にも制限が生じ、社会的な活動や人間関係にも影響を及ぼすことがあります。
歯の本数を維持することは単に口腔機能だけでなく、精神的・社会的な健康にも大きく寄与しているのです。
年齢別の歯を失う原因
歯を失う原因は年齢によって異なる傾向があります。若年層から高齢者まで、どのような原因で歯を失うのか、年齢別の特徴を見ていきましょう。
虫歯と歯周病
日本人が歯を失う二大原因は「虫歯(う蝕)」と「歯周病」です。特に40代までは虫歯が主な喪失原因である一方、50代以降は歯周病による喪失が増加します。
日本歯科医師会の調査によれば、日本人が歯を失う原因の約40%が歯周病、約30%が虫歯、残りの30%がその他の原因(外傷、矯正治療など)となっています。特に高齢者では歯周病による喪失が半数以上を占めるケースも多く、歯周病予防の重要性が浮き彫りになっています。
虫歯は急性の痛みを伴うことが多いため治療に結びつきやすい一方、歯周病は初期〜中期にかけてほとんど自覚症状がないまま進行することが特徴です。そのため「気づいたときには手遅れ」というケースも少なくありません。
加齢に伴う歯の変化と脆弱性
加齢に伴い、歯そのものや周囲の組織にも様々な変化が起こります。エナメル質の摩耗や微小亀裂の増加、象牙質の硬化、神経の狭窄、歯根膜の弾力性低下などが進行します。
これらの変化により、歯は徐々に脆くなり、破折しやすくなります。また、唾液分泌量の減少も高齢者に多く見られる変化で、これにより自浄作用や再石灰化作用が低下し、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
さらに、高齢になると薬の副作用によるドライマウスも増加します。高血圧や心疾患、精神疾患などの治療薬には唾液分泌を抑制するものが多く、複数の薬を服用している高齢者ではその影響が顕著になることがあります。
歯の喪失パターンと部位別特徴
歯の喪失には一定のパターンがあります。一般的に最も早く失われやすいのは下顎第一大臼歯(6番)で、次いで上顎第一大臼歯、第二大臼歯の順に奥歯から失われていく傾向があります。
これは第一大臼歯が最も早く生えてくる永久歯であり、咀嚼時の負担が最も大きいことが関係しています。また、奥歯は見た目に影響しないため、痛みがなくなれば治療を中断してしまうケースも多く、結果的に喪失につながることがあります。
一方、前歯は審美的な理由から治療や保存の意欲が高く、比較的長く残る傾向があります。しかし、歯周病が進行すると前歯も失われるリスクが高まり、特に下の前歯は歯周病による喪失が多いことが特徴です。
全身疾患と歯の喪失の関連性
歯の喪失リスクは全身疾患の有無や種類によっても影響を受けます。特に糖尿病は歯周病のリスク因子として広く知られており、血糖コントロールが不良な糖尿病の方は、糖尿病ではない方と比較して歯周病の進行が約3倍速いというデータもあります。
また、骨粗しょう症も歯の喪失リスクを高める要因の一つです。全身の骨密度低下は顎骨にも影響し、歯周病による歯槽骨の吸収を加速させる可能性があります。
さらに、関節リウマチや心疾患、呼吸器疾患などの慢性炎症性疾患を持つ方も、歯周病のリスクが高まることが知られています。これらの疾患では免疫機能や血流に影響があり、口腔内の炎症も悪化しやすいためです。このように、歯の健康は全身の健康状態と密接に関連しているのです。
老後も歯を長持ちさせるための方法
歯の健康は、日々の適切なケアと定期的な歯科検診によって大きく改善することができます。ここでは、年齢を問わず今日から実践できる、歯を長持ちさせるための具体的な方法をご紹介します。
効果的な日常のセルフケア習慣
自宅でのセルフケアは歯の健康維持の基本です。特に以下の点に注意して毎日のケアを行いましょう。
まず、歯ブラシの選び方と適切な磨き方が重要です。硬すぎる歯ブラシは歯や歯茎を傷つける可能性があるため、ふつう〜やわらかめの毛先を選びましょう。磨く際は強い力ではなく、小刻みに動かす「スクラビング法」や「バス法」と呼ばれる方法が効果的です。
歯と歯の間の清掃には、デンタルフロスや歯間ブラシが欠かせません。これらの道具を使うことで、歯ブラシだけでは届かない部分の歯垢を効果的に除去できます。特に歯周病予防には歯間部の清掃が非常に重要です。
また、高齢になると唾液の分泌量が減少するため、口腔内の保湿も大切です。こまめな水分補給や、キシリトール入りのガムを噛むことで唾液の分泌を促進することができます。就寝前には特に丁寧な口腔ケアを心がけ、夜間の口腔乾燥を防ぐために保湿ジェルなどを活用するのも効果的です。
定期検診と専門的ケアの重要性
セルフケアだけでは完全に予防できない問題もあります。そのため、定期的な歯科検診と専門的なケアが非常に重要です。
定期検診の理想的な頻度は、一般的には3〜6ヶ月に1回程度とされていますが、個人の口腔状態によって適切な間隔は異なります。歯科医院での検診では、肉眼では見えない初期の虫歯や歯周病を早期に発見することができます。
また、歯科衛生士によるPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)は、自宅でのケアでは取りきれない歯石や着色を除去し、歯の表面を滑らかに仕上げることで、新たな歯垢の付着を抑制する効果があります。
特に高齢になるほど自分では気づきにくい口腔内の変化が増えるため、定期検診の重要性は高まります。痛みや不調がなくても定期的に受診することで、大きな問題に発展する前に対処することができます。
食生活と栄養面からのアプローチ
歯の健康は食生活からも大きな影響を受けます。歯に良い食習慣を身につけることで、長期的な歯の健康維持に貢献できます。
まず、砂糖の摂取頻度を減らすことが重要です。甘いものを食べる場合は、だらだらと長時間かけて食べるのではなく、食後のデザートなど、まとめて食べるようにしましょう。また食後は水でうがいをするなど、口腔内を清潔に保つ工夫も効果的です。
カルシウムやビタミンDは歯や骨の健康に欠かせない栄養素です。乳製品、小魚、緑黄色野菜などを積極的に摂取しましょう。また、適度に硬い食品を噛むことは、顎の骨や歯周組織を刺激し、健康維持に役立ちます。ごぼうやりんご、するめなど、「噛みごたえ」のある食品を意識的に取り入れることをおすすめします。
さらに、唾液には口腔内を洗浄し、pHバランスを整え、初期の虫歯を修復する働きがあります。唾液の分泌を促すためには、よく噛む習慣を身につけ、一食あたり30回以上噛むことを目標にするとよいでしょう。
喪失した歯の適切な補綴治療
既に歯を失ってしまった場合でも、適切な補綴(ほてつ)治療によって機能を回復し、残っている歯を守ることができます。歯の欠損を放置すると、周囲の歯が傾いたり、対合歯が伸びてきたりするなど、さらなる問題を引き起こすことがあります。
補綴治療には、ブリッジ、部分入れ歯、総入れ歯、インプラントなど様々な選択肢があります。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあるため、自分の口腔状態や生活スタイル、予算などに合わせて最適な方法を歯科医師と相談して選ぶことが大切です。
特にインプラント治療は、天然歯に近い機能と審美性を回復できる方法として注目されています。骨と直接結合するため安定性が高く、隣在歯を削る必要がないというメリットがあります。ただし、手術が必要であることや、費用が比較的高額になることなどの特徴もあります。
どのような補綴方法を選んでも、定期的なメンテナンスは欠かせません。特に部分入れ歯やインプラントは、残っている天然歯とともにケアすることで、長期間にわたり快適に使用することができます。
まとめ
老後の歯の本数は健康寿命と密接に関わっています。65〜69歳の平均残存歯数は23.8本ですが、年齢とともに減少し、85歳以上では14〜14.5本となります。8020運動(80歳で20本以上の歯を保つ)の達成率は約40%まで向上していますが、まだ改善の余地があります。
歯の本数が多いほど咀嚼機能が維持され、栄養バランスの良い食事が摂れることで健康寿命の延伸につながります。実際に、20本以上歯がある高齢者は、そうでない方と比べて健康寿命が約4.4年長いというデータもあります。
歯を失う主な原因は虫歯と歯周病です。特に50代以降は歯周病による喪失が増加するため、定期的な歯科検診と適切な口腔ケアが重要です。日常のセルフケア、定期的な歯科検診、バランスの良い食生活を心がけることで、何歳になっても自分の歯で食事を楽しむことが可能です。
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