結論:顎関節症とは、顎の関節や顎を動かす筋肉に起こる障害の総称で、「顎が痛い」「口を開けると音が鳴る」「口が大きく開かない」の3つが主な症状です[1][3]。原因はひとつではなく、上下の歯を接触させ続ける癖や歯ぎしり、ストレス、姿勢の癖など、顎に負担をかける複数の要因が重なり、その人の耐えられる範囲を超えたときに症状が出ると考えられています[1]。多くは軽症で、症状がかなり改善する人も多い一方、痛みが続く場合は歯科医院での診察が勧められます[1][2]。
顎関節症とは?顎関節と筋肉に起こる障害の総称
顎関節症は、顎関節や咀嚼筋(ものをかむための筋肉)の痛み、関節の音、口の開けにくさなどをまとめて呼ぶ診断名です[3]。
日本顎関節学会は、顎関節症を「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害あるいは顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名」と定義しています[3]。「包括的」とあるように、ひとつの病気ではなく、いくつかの異なるタイプをまとめた呼び名です。
顎関節のしくみ
顎関節は、耳の穴のすぐ前に左右1つずつある関節で、頭の骨(側頭骨)と下あごの骨をつないでいます[1][2]。関節の間には「関節円板」と呼ばれるクッションのような組織があり、骨同士が直接こすれ合わないようにしています[2]。顎関節は、ちょうつがいのように開け閉めするだけでなく、前後や左右にも動く、体の中でも特に複雑な関節とされています[2]。
顎関節症はどのくらい多い?なりやすい人
顎関節症は、一生のうちに「二人に一人は経験する」といわれるほど身近なものです[1]。
日本歯科医師会によると、次のような特徴があります[1]。
- 関節の音だけであれば、人口の20%近くにみられるとされる[1]
- 症状を自覚した人のうち、実際に治療が必要になるのは5%程度と推定されている[1]
- 医療機関を受診するのは女性が多い[1][2]
- 10歳代後半から増え、20〜30歳代で最も多くなり、その後は減っていく[1]
顎関節症の3つの主な症状
顎関節症の代表的な症状は「顎の痛み」「関節の音」「口の開けにくさ」の3つです[1][4]。
| 症状 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 顎が痛い | 口を開けたり、かんだりすると顎関節や顎の筋肉が痛む。硬い物をかむと痛むこともある[1][2] |
| 顎が鳴る | 口の開け閉めで「カクン」「カクカク」と音がする[1][2][4] |
| 口が開かない | 口を大きく開けられない。ずれている感じを伴うこともある[1][2] |
1. 顎が痛い
痛みは、顎関節そのものではなく、ほおやこめかみなど顎を動かす筋肉に出ることもあります[1][2]。痛む場所が関節の近くのように感じても、原因が筋肉にある場合があります[2]。
2. 顎が鳴る(関節の音)
口を開け閉めしたときの「カクン」という音は、関節円板が前にずれて、口を開けるときに元の位置に戻ることで起こるとされています[1][2]。日本歯科医師会は、音だけの場合は首や肩を鳴らすのと同じで、世界的には治療の必要はないとされていると説明しています[1]。
3. 口が開かない(開口障害)
関節円板のずれが大きくなって元に戻らなくなると、音はしなくなる一方で、口が大きく開かなくなることがあります[1][2]。それまで鳴っていた音が急に消えて口が開きにくくなった場合は、このタイプの可能性があります。
顎以外に出ることがある症状
頭痛、耳の痛みや詰まった感じ、首や肩の痛み・こわばりなどがみられることもあります[2][4]。ただし、これらは別の病気でも起こるため、原因は診察で確かめることが大切です。
顎関節症のタイプ(病態分類)
顎関節症は、どこに問題があるかによっていくつかのタイプに分けられます[1][3]。
日本顎関節学会の分類では、次の4つのタイプがあり、ひとりに複数のタイプが重なることもあります[3]。
| タイプ | 主な状態 |
|---|---|
| 咀嚼筋痛障害 | 顎を動かす筋肉の痛み。口を開けるとほおやこめかみが痛む[1][3] |
| 顎関節痛障害 | 関節の捻挫に似た痛み。口を開けると関節が痛む[1][3] |
| 顎関節円板障害 | 関節円板のずれ。音が鳴るタイプと、口が開かなくなるタイプがある[1][3] |
| 変形性顎関節症 | 関節を作る骨の変形。長年続いている場合や高齢の方に多い[1][3] |
日本歯科医師会によると、受診する人の約60%は関節円板のずれによるもの(音が鳴る・口が開かない)とされています[1]。
顎関節症の主な原因
顎関節症の原因はひとつに絞れず、顎に負担をかける複数の要因が積み重なって起こると考えられています[1][2]。
この考え方は「多因子病因説」と呼ばれ、顎に負担をかける要因(寄与因子)が重なり、その人の顎の耐久力を超えたときに症状が出るとされています[1]。日本歯科医師会は、主な寄与因子として次のものを挙げています[1]。
- 体の構造:顎関節や顎の筋肉の構造的な弱さ[1]
- かみ合わせ:不良なかみ合わせ。ただし、これだけで症状が起こることはまれとされる[1]
- 精神的な要因:緊張や不安、気分の落ち込みが続くこと[1]
- けが:打撲、転倒、交通事故など[1]
- 日常の癖や行動:下の表を参照[1]
| 場面 | 顎に負担をかける行動の例[1] |
|---|---|
| 日常の癖 | 上下の歯を接触させ続ける癖、頬杖、長時間のスマートフォン操作、爪かみ、うつぶせでの読書 |
| 食事 | 硬い物をかむ、ガムをよくかむ、片側だけでかむ |
| 睡眠 | 歯ぎしり、睡眠不足、高い枕や硬い枕、うつぶせ寝 |
| 仕事・趣味 | 緊張が続く仕事、パソコン作業、重い物を運ぶ、楽器演奏(特に吹奏楽器)、歌唱、コンタクトスポーツ |
特に注目される「上下の歯を接触させる癖」
口を閉じているときは、唇は軽く触れていても歯は接触させないのが望ましいとされています[4]。上下の歯を不必要に接触させ続ける癖は「歯列接触癖(TCH)」と呼ばれます[1]。日本歯科医師会は、受診する顎関節症の患者さんの約8割がこの癖をもっており、改善すると大部分の患者さんで症状がよくなったことから、最も大きな寄与因子と考えられると説明しています[1]。
また、MSDマニュアルでは、最も多いタイプである筋肉の痛みには、歯のかみしめや歯ぎしり(特に睡眠中)、ストレスが関係するとされています[2]。
顎関節症の診断と、似た症状の病気
顎関節症は、問診と診察で症状を確認し、ほかの病気ではないことを確かめたうえで診断されます[1][3]。
症状がいつ始まり、どう変化したかを聞き取り、顎関節や筋肉、口の中を診察します[1]。必要に応じて、骨の状態はエックス線やCT、関節円板などのやわらかい組織はMRIで調べます[1][2][3]。
親知らずの炎症など、顎関節症以外の病気でも似た症状が出ることがあるため、ほかの原因を確認することが重要とされています[1]。自己判断で「顎関節症だろう」と決めつけず、歯科医師の診察を受けましょう。
顎関節症は治る?経過と受診の目安
顎関節症の多くは軽症で、時間とともに改善していくことが多いとされています[1][2]。
MSDマニュアルによると、多くの人は約3か月以内に症状がかなり改善し、症状が軽い場合は治療を受けなくても回復することが多いとされています[2]。日本歯科医師会も、痛みや口の開けにくさが一時的だった場合や、音だけでほかの症状がない場合は、治療が必要ない可能性があるとしています[1]。
一方、次のような場合は歯科医院への相談をおすすめします。
- 口を大きく開け閉めしたときの痛みが、1週間以上続いている[1]
- 口が開きにくく、食事や会話に支障がある[1][2]
- 症状が悪くなったり、よくなったりを繰り返している[4]
歯科では、症状やタイプに応じて、セルフケアの指導、就寝中などに使う口腔内装置(スプリント)、痛み止めなどによる対応が検討されます[2]。痛みがあるときは、大きく口を開けることや硬い物をかむことを控え、顎を休ませることが勧められています[4]。
よくある質問
顎がカクカク鳴るだけでも治療が必要ですか?
日本歯科医師会は、痛みや口の開けにくさがなく音だけの場合は、世界的には治療の必要はないとされていると説明しています。ただし、痛みが出てきた、口が開きにくくなったなど変化があれば、歯科医院で相談しましょう。
顎関節症はかみ合わせが原因ですか?
かみ合わせは寄与因子の一つですが、それだけで症状が起こることはまれとされています。上下の歯を接触させ続ける癖、歯ぎしり、ストレス、姿勢など、複数の要因が重なって起こると考えられています。
顎関節症は自然に治りますか?
多くの人は約3か月以内に症状がかなり改善し、軽い場合は治療なしで回復することも多いとされています。ただし、痛みが1週間以上続く場合や口が開きにくい場合は、歯科医院を受診してください。
顎関節症は何科を受診すればよいですか?
顎関節症は歯科で診察を受けることができます。歯科では、顎関節や筋肉、口の中を診察し、必要に応じて画像検査を行います。ほかの病気が疑われる場合は、適切な診療科を紹介されることがあります。
歯を接触させる癖は自分で直せますか?
口を閉じているとき、上下の歯は本来わずかに離れています。日中に歯が触れていることに気づいたら離す、という意識づけが基本です。症状がある場合は、歯科医院で具体的な方法の指導を受けましょう。
顎の痛みや音、口の開けにくさの原因は人によって異なります。気になる症状がある方は、歯科医師にご相談ください。日本歯科札幌での顎関節症の診療内容(スプリントの作製や画像検査など)については、詳しくは各院にお問い合わせください(日本歯科札幌のクリニック紹介)。