糖尿病でもインプラントはできるの？

インプラント治療は、抜けた歯を補うために顎の骨に人工の歯根を埋め込み、その上に被せ物を装着する治療法です。見た目の自然さや噛み心地の良さが特徴ですが、糖尿病をお持ちの方にとっては、治療後の感染リスクや傷の治りが気になるところではないでしょうか。とはいえ、「糖尿病でもインプラント治療は絶対に不可能」ではない点が大切なポイントです。しかし、血糖値のコントロールをはじめとしたいくつかの条件があり、リスクも考慮しなければなりません。この記事では、糖尿病の方がインプラント治療を受ける際に気を付けたいリスクや注意点、治療を成功させるためのポイントなどをわかりやすく解説していきます。

糖尿病とインプラント治療の基礎知識

糖尿病とはどのような病気？

糖尿病とは、血液中のブドウ糖濃度（血糖値）が慢性的に高くなる病気の総称です。血糖値のコントロールがうまくいかない状態が続くと、血管や神経に負荷がかかり、さまざまな合併症を引き起こします。一般的には、1型糖尿病と2型糖尿病に分類され、特に日本人の多くは生活習慣の影響が大きい2型糖尿病を発症する傾向にあります。

インプラント治療とは？

インプラント治療は、歯を失った部分の顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯（上部構造）を装着することで、見た目と機能を補う治療法です。ブリッジや入れ歯と比較して、自分の歯に近い感覚で噛めることや、見た目も自然な仕上がりになる点が注目されています。一方で手術を伴うため、身体的な健康状態や口腔内環境をしっかり整えておく必要がある治療でもあります。

糖尿病の方が抱えるインプラント治療での主なリスク

糖尿病を持つ方がインプラント治療を受ける場合、いくつか特有のリスクが高まります。ここでは代表的なリスクとして、感染症、骨の吸収、傷の治りの遅れ、低血糖などについて詳しく見ていきます。

1. 細菌感染のリスクが上がる

インプラント治療では、顎の骨にインプラント体を埋入する際に歯肉を切開するため、一時的に骨が露出し、そこから細菌が侵入する可能性があります。健康な方であれば免疫力によって感染を抑えられるケースがほとんどですが、糖尿病を持つ方は血糖値のコントロール不良によって免疫機能が低下することが多く、細菌感染リスクが上がるのです。さらに治療後のメンテナンスが十分でないと、インプラント周囲炎（インプラント周辺の組織が炎症を起こす疾患）を発症しやすい点にも注意が必要です。

2. 傷の治りが遅れやすい（血流の悪化）

糖尿病になると血糖値が慢性的に高い状態が続き、血管のダメージが起こりやすくなります。その結果、血流が悪くなるとともに、傷の治りに必要な栄養や酸素が十分に供給されません。インプラント手術では歯肉を切開するため、治療後の傷の回復力が低下し、治療期間が長引くリスクがあります。また、感染症のリスク増大とも相まって、より慎重な経過観察が求められます。

3. 骨の吸収が進みやすい

骨吸収とは、古くなった骨が分解される現象です。通常は骨形成（新しい骨の生成）とバランスを取りながら骨の新陳代謝が行われていますが、糖尿病の場合は血糖値の上昇やインスリン抵抗性などの影響で骨質が劣化しやすいとされています。骨吸収がインプラント周囲で進むと、インプラント体がしっかりと固定されにくくなるため、インプラントのぐらつきや脱落といったトラブルにつながる可能性があります。

4. 低血糖のリスク

糖尿病の治療で薬物療法（インスリン注射や経口血糖降下薬など）を行っている方は、治療後の食事制限によって低血糖を起こすリスクがあります。特に、手術後に強い痛みなどで十分な食事が取れないケースや、医師の指示なしに普段通りの量の薬を使用した場合などは、血糖値が急激に下がりすぎる可能性があるのです。低血糖発作が起きると発汗や動悸、手足の震えなどが現れ、重症化すると意識障害や昏睡状態に陥る危険もあるため、細心の注意が必要になります。

糖尿病でもインプラント治療は受けられるのか？

これらのリスクを踏まえると、糖尿病の方はインプラント治療を受けにくい印象を持たれるかもしれません。しかし、「糖尿病だからインプラントが絶対に無理」というわけではありません。血糖値がしっかりとコントロールされており、HbA1c（過去1～2か月の平均血糖値を示す指標）が一定の範囲内に収まっている方であれば、インプラント治療が可能と判断されるケースも多いのです。

一般的には、HbA1cが6.9％以下、空腹時血糖値が140mg/dl以下が目安とされることが多いですが、最終的な判断は歯科医師と内科医の連携による総合的な診断に基づきます。また、インプラント手術を行う前に、歯周病や口腔内の他の炎症性疾患を治療しておくことで、感染リスクを減らすことが可能です。

糖尿病患者さんがインプラント治療を受ける際の注意点

ここからは、実際に糖尿病を持つ方がインプラント治療を検討する際に、どのような点に注意するべきかを解説します。血糖値コントロールだけでなく、内科や歯科医師との連携、術後の管理など複数の要素が重要になります。

1. 血糖値のコントロール状況をしっかり確認する

インプラント治療の可否を決める最も大きな要素が、「血糖値がどれだけ安定しているか」です。無理な食事制限や自己判断での薬の減量は避け、内科医の指示に従いながら食事療法や運動療法、薬物療法を継続しましょう。手術前には、必ず血糖値やHbA1cを測定し、医師に報告することが大切です。

2. 内科医への事前相談

糖尿病の治療を受けている方は、インプラント治療を受ける旨をかかりつけの内科医に報告し、相談しておきましょう。インプラント手術では局所麻酔や投薬が行われるため、薬との相互作用や術後の影響を正しく把握することが重要です。糖尿病の専門家の意見を聞くことで、安全面を最大限に考慮した治療計画を立てることができます。

3. 低血糖発作への備え

インプラント治療の手術時間は比較的短いですが、個人差があるため、低血糖発作のリスクはゼロではありません。過去に低血糖を起こした経験がある場合は、主治医と相談し、氷砂糖やブドウ糖を常備しておくなどの対策が必要です。また、手術のタイミングを食後に設定するなど、血糖値が安定している時間帯を選ぶ配慮も考えましょう。

4. 口腔内環境の改善とメンテナンス

糖尿病の方は免疫力が低下しているため、歯周病や虫歯が進行しやすいとされています。インプラント治療を成功させるには、まず口腔内環境を整えることが欠かせません。具体的には歯周病の治療、むし歯の治療、歯石の除去などを徹底的に行い、「歯ぐきや歯周組織を健康な状態に保つことが手術成功率を高める鍵」となります。治療後も、定期的なメンテナンスで歯科医院を受診するようにしましょう。

5. 術後の食事や生活習慣に注意する

インプラント手術後は、一時的に食事の摂取が難しくなったり、制限がかかったりする場合があります。治療計画の段階で術後の食生活の見通しを立て、必要であれば内科医に薬の調整を依頼しましょう。糖尿病管理と術後ケアを同時に行うことで、身体全体の健康を保ちながらインプラントの定着を促進することが期待できます。

糖尿病患者さんがインプラント治療を受けるメリットとデメリット

このように、インプラント治療自体には大きなメリットがある反面、糖尿病の方にとっては血糖値や免疫面のリスクを常に考慮する必要があります。十分な準備と医師との連携でデメリットを最小化できれば、快適な口腔環境を得られる可能性は高まるでしょう。

糖尿病患者さんへのアドバイス

最後に、糖尿病をお持ちでインプラント治療を検討している方へ、実践的なアドバイスをまとめます。いずれも治療を成功に導くためには欠かせないポイントです。

1. 内科医と歯科医の密な連携

インプラント手術を行う歯科医師は糖尿病の専門家ではありません。一方で、内科医は歯科治療に関する専門知識は持ち合わせていないかもしれません。このギャップを埋めるために、内科医と歯科医の情報共有が何より大切です。投薬内容や血糖値の推移、合併症の有無などを共有し、最適な手術日程や麻酔方法、術後の管理方法を決定していきましょう。

2. 生活習慣の見直し

糖尿病管理の基本となるのは、食事療法と運動療法です。インプラント治療の成功率を上げるためにも、「バランスの良い食事と適度な運動習慣を継続し、体重や血糖値を適切にコントロールすること」が重要です。これによって免疫力の低下を防ぎ、術後の感染リスクを下げる効果も期待できます。

3. 口腔ケアの徹底

インプラント治療後、メンテナンスを怠るとインプラント周囲炎のリスクが高まります。特に糖尿病の方は本来の免疫力が低下している可能性があるため、日頃のブラッシングやフロス、うがいなどを入念に行いましょう。歯科医院での定期健診で早期発見・早期治療を行うことも、インプラントを長持ちさせる大きなポイントです。

4. 十分な説明を受ける

インプラント手術に限らず、外科的処置にはリスクが伴います。糖尿病の方は特に細菌感染や血糖値の変動リスクが高い傾向にあるため、主治医からしっかりとリスクやメリットについて説明を受け、納得してから治療を進めましょう。質問や疑問点があれば遠慮せず相談し、不安を取り除くことが重要です。

まとめ

糖尿病の方でも、血糖値が適切にコントロールされており、口腔内環境を整えた上で臨めば、インプラント治療を受けられる可能性があります。感染リスクや傷の治りの遅さなど、糖尿病特有の懸念事項はありますが、内科医と歯科医が連携し、患者さん自身も日々の生活習慣や口腔ケアに気を配ることでリスクを最小限に抑えられます。インプラント治療を通じて、しっかりと噛める喜びや自然な見た目を取り戻すことは、患者さんのQOL（生活の質）向上にも大きく寄与するでしょう。

もし糖尿病をお持ちでインプラント治療を検討している方は、まずはかかりつけの内科医や歯科医院に相談し、治療計画を立てることから始めてみてはいかがでしょうか。専門家との密なコミュニケーションが、安心・安全な治療への第一歩となります。

日本歯科グループのクリニックでは、豊富な治療実績と先端の技術力を活かし、患者さまの希望に沿ったオーダーメイドのインプラント治療を提供しています。専門スタッフのチーム医療と充実したサポート体制で、術前の疑問や不安をしっかりと解消しながら、安全・安心の治療を目指します。まずはお気軽にご相談ください。